三井さんの大学と練習試合になって、高校卒業以来久しぶりに会った。相変わらずバスバススリー入れるし、体力的なところも強化したのかスタメンでフル出場しても全然ベバってない。なんかムカつく。
「三井さんこの後なんか用事ある?」
「あ?なんだよ藪から棒に。」
「ワンオンワン付き合ってよ。」
 結局三井さんのチームに負けた。二点差の大接戦で。三井さんのスリーが試合終了のブザーが鳴り響くギリギリのところで弧を描いて、結局逆転負けを食らった状況だ。正直めちゃくちゃ悔しい。あの人本当に逆境に強いし、認めたくないけど主役になれる人なんだろうと思う。
「それ今度じゃ駄目か?」
「別にいいけど、どうせなら今でいっかなって。」
「この後約束あんだわ。」
「へ〜、デート?」
 なんだ、用事あるんだ。最初からそう言えばいいのに。なんかそんなに溜めて言われると俺が振られたみたいな感じになるじゃん。用事ある?の時に「ある」の一言で終わるのに……やっぱりムカつく。
 どうせ大した予定じゃないんだろうけど。
「ま、デートっちゃデートか。」
「なに、アンタ彼女いんの?」
「別に彼女くらい居たって可笑しくねえだろ?」
 なんか余裕あるこの言い様、死ぬほどムカつくな。三井さんのくせに。そりゃ顔はちょっと整ってるかもしれないし、背だって結構高いし、スタイルいいから無地のTシャツ一枚でもなんか決まってるし、一回「あ?」とは言われるけどこれ食べたいって言ったら結構奢ってくれるし……これじゃあ俺が三井さんに恋してるみたいじゃん。
 やっぱりムカつく。
「つか宮城、お前も来いよ?」
「人のデートに付いてくほど野暮じゃねえし。」
「どうせ暇なんだろ?」
「一言余計なんだよ!」
 みんながみんな自分と同じコミュ力持ってると思ってんのかな。これ俺、どういうテイで行くの?意味わかんなくない?行ったとしてそもそもどうすんだよ。彼女さんと三人の共通の話題なんてあるのか?
「なんだ、お前お好み焼き嫌いなのか?」
「お好み焼きのくだり今聞いたんだけど?」
「お〜、そうだったか?」
 まじで抜けてる。昔からそうだったけど。こんな変わった人(顔はいいからモテるだろうけど)と付き合ってる彼女ってどんな人だろう。そもそも三井さんって彼女の前でどんな感じなんだろう。もしかしてこのまんまなのか?
「なんだよ、ちゃんと奢るぞ?」
「………じゃあ行く。」
 その言葉に負けてホイホイついて行った訳で、今俺の前には鉄板があって、そしてじゅうじゅう色んなもんが焼けてる。いや、焼けてるのは大いに結構なんだけど……なんで俺の隣に彼女座ってんの?
「宮城くんたこ焼き嫌いだっけ?」
「…いや、そんな事ないデス。」
「なんで敬語?クラスメイトだったのに〜。」
 しかも何で彼女俺の元クラスメイトな訳?全然聞いてねえし……てか言えよ。いくらでも言うタイミングあっただろうし、俺を連れて行こうと思ったのだって多分俺が彼女の事知ってるからだろ。逆になに言ってんだ?みたいな顔でこっち見てくんなし。
「アンタはさ……何で先に言わないかな?」
「たこ焼きの事か?」
「違うだろ!ちゃんと付き合ってるって事だよ!」
「あ〜、事前に許可必要だったか?」
「許可とかじゃなくて普通言うだろ!」
 そうなのか?なんて頭捻りながらたこ焼き回してるけど、なにこれ俺がおかしい感じになってるの?嘘でしょ?
 助けを求めるように隣を見ると、もう既にそんな三井さんに慣れきっているのか、突っ込むどころか黙々と先の尖った棒で彼女はたこ焼きをひっくり返してる。これって慣れとかそういう問題な訳?
「宮城くん、突っ込んだら負けだよ。」
「……そうなの?」
「三っちゃん自分がボケボケな自覚ゼロだから。」
「あ〜?なんか言ったか?」
「三っちゃんそっち焦げてるって。」
「お〜、危ねえ。」
 この二人何なんだ。本当に付き合ってるのか?全然そんな感じしないんだけど。しかも彼女俺の隣に座ってるし。まじで意味がわからない。
「喋る時は相手の顔見てって事らしいよ?」
「なに、複数でくるとこれデフォ?」
「そう。」
 本当に意味は分かんないけど、でも確かに三井さんなら言ってそうな気はする。なんか地味に母ちゃんっぽいところがあるんだよな。話す時は人の顔をちゃんと見て話すとか、いただきますご馳走様ちゃんと言うとか、食べてる時に肘つかないとか……どんないいお育ちしてんだよ。グレてた癖に。
 彼女の話だと、今二人は同じ大学に通ってるらしい。
 元々知り合いという訳じゃなかったけどお互い存在は知っていて、そこから発展して付き合ってるらしいけど……本当に三井さんって彼女の前でも俺の前でも全く変わらない。キスとかどういうタイミングでしてんだろ?正直気になる……いや、相手が知ってる人だからだいぶ無理だ。
「あ、こっちの列にもタコ入れたでしょ?」
「たこ焼きなんだから入れるだろ。」
「こっちの列入れないでって言ったじゃん。」
「好き嫌いしてねえでちゃんと食えよ。」
「食べれるなら食べてるって!」
 この二人のやりとり、ほぼ俺と三井さんのやりとりと一緒じゃない?この空気感のどこに恋人のそれがあるんだ?それとも今日はたまたま俺がいるからそういう雰囲気を出してないってそれだけ?いや、それにしてもちょっとやりとり殺伐としすぎてない?
 もう今日突っ込んでしかないんだけど?
「ったく……しょうがねえな。」
 彼女がたこ焼きからほじり出したタコは三井さんが箸で摘んでぱくぱく口に運ばれていく。何だよ、結局なんだかんだ言う割には彼女には甘いんじゃん……いや、彼女にも?
「てか三っちゃんたこ焼き余計だったでしょ?」
「うまいだろ、たこ焼き。」
「うまい不味いじゃなくお好み焼きもあるから普通にお腹に入らないって言ってる。」
 それは彼女の言う通りだ。タコ穿り始めた時はどうしようかと思ったけど。しかし本当に店出るまでこんな感じなのか?今の所全然二人が付き合ってる感じないんだけど。老夫婦っぽいっちゃそうなのかもしれないけど。
 クラスでもマドンナ的存在だったちゃんと付き合ってるとか正直羨ましすぎるし、こんな感じなら普通に俺と付き合った方が楽しませてあげられるんじゃない?これ。
 俺なら絶対俺の隣に座らせるし、ちゃんと可愛いって言うし(人がいても)、好きって言えるし……三井さんってちゃんとそういう愛情表現してんのかな。
「残さず食えよ。」
「だから!食べれるなら食べてる!」
「世界にはな〜、」
「三っちゃんそれ一万回聞いた。」
「ありがたいんだぞ?こうして食べれんのは。」
 この人、寺で説法でも説いてんのか?育ちがめちゃくちゃいいのはとりあえず再認識したけど、どこまで真っ直ぐなんだよ。更生したからいいようなもんだけど、よくこのマインド持っててグレたよな。逆にグレてたのが信じらんねえ。
 彼女の方を見ると明らかにむすっとしてる。
 多分満腹でもう食べれないんだろうな。お好み焼きを小さくカットして、口の中に入れるのを見せつけるようにしてる。意地悪かもしれないけど、普通に可愛い。もっと見てたい。口元にソースついてるし……三井さん本当に男か?
ちゃん俺たべ……」
「しょうがねえな?次はちゃんと食えよ?」
 俺の言葉を遮って、三井さんのデッカい声と箸が飛んできた。箸がこんな猛スピードで飛んでくるの初めて見た。なんだよ、結局食うのかよ。もしかして今の牽制だったりする?俺の隣に座らせておいて?
「ん、ソースついてんぞ?」
「……うん。」
 さっきまでものすごく強気だったのに、なんか彼女まで照れてるし。普通にめっちゃ可愛いな……じゃなくて!なんだよ、結局最後は二人して俺に見せつけるってそういう事かよ?
 テーブルの向こう側から自分のおしぼりで口元拭いてさ、しかも拭かれてる彼女はちゃんと照れててさ?この二人、もしかして毎回こんなやり取り普通にしてる訳?
 好きとか可愛いとか、そんな言葉言い合ってるよりよっぽど恥ずかしいじゃん。三井さんが特に照れてないところを見ても、これは多分普通にいつもやってんだな。
「あ〜、なんだ?お前の口のソースも拭いてやろうか?」
「いらね〜よ!」
 完全に惚気を見せつけられた訳で、後からめちゃくちゃ胃もたれしそうな気しかしてない。
 結局今日分かったのは、この先輩は卒業してもちゃっかりしてて、そして俺をイラつかせる天才だってことだ。もう……ほんっと、羨ましい!



幸せになりたい
( 2023’05’22 )