千葉県の六角にあたしは帰ってきた。

 六角を出たのは高校の卒業と同じ日だった。あたしは荷造りを済ますと友人たちと高校時代の思い出に浸る事無く電車に乗り込んで東京に向かった。周囲からは何も卒業と同時に引っ越す必要もないのではないかと言われたが、あたしの東京に対する憧れを前には誰も引きとめる事なんて出来なかった。
 電車を二本乗りついで辿りついた東京の街を見てあたしはこれからに想いを馳せた。憧れの地である東京が自分の街になった。何もかもが新しくて斬新であたしの中にあったのは期待以外他なかった。

 あたしには彼氏と呼ばれる人がいた。所謂幼馴染と呼ばれる関係から発展した互いに気心の知れた相手だった。“お熱い”というよりは“仲がいい”そう言われるあたしと彼に終焉が訪れたのも、あたしが東京に来て程なくの事だった。
「虎次郎は受験どうする?」
 高校三年生にあがった時あたしは何気なく彼に言葉をかけた。問いかけておきながらも何処かあたしは彼の答えを確信していたような気がする。地元への愛が人一倍強い彼の答えなんて想像に容易い。
「俺は県内の国立大学を受けるつもり」
 予想通りの彼の回答にあたしは「やっぱりね」そう呟いた。彼はスポーツだけでなく勉学にも優れていた。きっと本当に県内の国立大学に合格して進学するだろうと思った。
 話を進めて行くと今度は彼はあたしと同じ言葉を問いかける。
「青葉は受験どうする?」
 笑顔で尋ねてくる彼を前にあたしは一瞬罪悪感にも似た何かを感じて言葉を止めた。いくら互いに気を許しあっている仲であっても自分が東京の大学に行こうと思っているとは言いだしづらいものだった。遠距離恋愛という言葉にいいイメージがある筈もなく、少なくとも不安が残る言葉だと思うのはけしてあたしだけの事じゃないだろうとも思ったからだ。
 でも言わない訳にもいかない。それにそれが現実になるとも限らない。彼に隠し事をすることなんて今まで一度だってなかったから。あたしは少し間をおいて言葉を紡いだ。
「あたし東京の大学に行きたいの」
 勢いをつけて言いきってもう一度彼を見やった。
   彼は、笑っていた。
「やっぱりね」
 少し間を置いてもう一言。「青葉ならそう言うだろうと思った」と。
 あたしは一瞬呆気に取られて身動きを封じられていたが、そんなあたしを見て彼は声をあげて笑い始めた。彼を動揺させてしまうかもしれないと思ったあたし自身が逆に動揺を隠しきれなかった。彼には何でもお見通しだったのだ。全くこの男に限っては恐れ入る。
 彼はあたしが東京に強い憧れを抱いていたのを知っていた。物心付く前から一緒にいた彼は本当にあたしのことをよく知っているとこの時ほど思った事はないかもしれない。
   佐伯虎次郎とはそういう男だった。

 あたしは幼いころから東京という街が憧れだった。
 生まれて初めて東京に行ったのは小学校三年生の時だった。家族ぐるみで仲がよかった彼の家族とあたしの家族で行ったのを今でも本当によく覚えている。立ち並ぶ巨大な建物とオシャレな雰囲気、そして何より人で溢れていた。この時からあたしの中で東京は絶対的な存在になった。
 そこからあたしはよく東京という単語を発するようになって周囲を困らせた。東京に行くことは本当に何にも変えられないあたしの趣味となる。
 中学校の生活にも慣れ始めたころあたしはごく自然と虎次郎と付き合うようになった。月に一度は必ず東京に行った。遊ぶのも、服を買うのも、映画を見るのも、全部東京だった。あたしと虎次郎にとってデートと東京は切っても切れないものになっていた。
 高校生にあがってもあたし達のデートの中心はあくまでも東京だった。もちろんそれはあたしがそれを強く望んだから。当然のように東京に溶け込んだ。それでもあたしが東京に抱く憧れは初めて東京を訪れた時からコンマ単位も狂う事無く絶対的なものだった。何年経ってもどれだけ東京で時を過ごしてもその想いは変わらなかった。
「東京ってほんとに凄い」
   まさしく東京は夢の街だった。

 ここまで東京に依存しきっているあたしが東京の大学に行きたい事など、あたしが彼は県内に残るだろうと思ったのと同じよう、考えるに容易かったのかもしれない。特に勘の鋭い彼ならば余計に。
「いいの?あたし他も東京の大学しか受けるつもりないから、」
「遠距離になるってこと?」
 一度静かに頷くと彼は言う。「別に何も変わらないんじゃないのかな」って。今までが一緒に居すぎたくらいだと笑った。この時はどうしてそんな事を笑って言えるのだろうかと思った。先の事とは言ってもあたしが東京に行ってしまう事が悲しくないのだろうかと。
 あたしは本当に虎次郎が好きだった。傍から見れば幼馴染の延長にしか見えないような関係だったかもしれない。刺激よりも慣れ合いな関係だったとも思う。それでもあたしは本当に虎次郎が好きだった。東京と同じくらいに。
「虎次郎は寂しくないの?」
 彼はあたしがしたように一瞬の間を開けると平然な顔つきで言ってのける。
「そりゃ寂しいよ。でも青葉が望むんだったら仕方ないだろ」
 当然であってそして誰よりも大人な答えにあたしは余計と寂しさを募らせた。虎次郎は大人過ぎて、そして聞きわけがよすぎた。それは昔からのことだったけれど本当は少しだけ不安に顔をしかめる彼の顔を見てみたかったのだ。
「俺は六角で待ってるから」
 聞きわけがいい分誰よりも頑固なのも虎次郎だった。
 あたしは東京に行く、虎次郎は六角に残る、それはどうにも変えられないこの頃からの事実だった。
 こうしてあたしと虎次郎は別々の道へと歩みを進めて行く事になる。

 千葉県の六角から電車を二本乗りついで小一時間したところにあたしの大学と家がある。六角の実家からでも十分に通える距離ではあったけれどあたしに六角に残るという選択肢は全くなかった。高校の卒業と共に迷いなく生まれ育った故郷を離れた。
   最初の方は虎次郎によく電話をした。慣れない生活によく相談も聞いてもらった。
   学校が始まって忙しくなった。それでもあたしは最初の一か月毎週六角に帰って虎次郎に会いに行った。
   友達が沢山出来た。虎次郎にかける電話の回数が見るからに減っていった。
   バイトを始めた。毎週帰っていた筈の六角にも全く帰らなくなった。
   毎日が充実している。あたしは東京の人になった。憧れだった東京がついに自分の街になった。
 自分の事で精いっぱいだった。そして東京は六角での記憶を徐々に消し去ってしまうくらいに楽しい魔力を持っていた。あたしはどっぷりと東京にはまっていく。そのうちあたしはこの東京の中にあるものだけで生活をするようになる。あの時虎次郎と見た憧れの東京が自分だけのものになってしまったのだ。
 あたしは決意して携帯を右手に持つと懐かしいアドレスを開く。最早着信履歴を探しても彼の名前は見当たらなかった。
「虎次郎、あたし達もう別れよ」
 数か月ぶりに電話越しで聞いた虎次郎の声はいつもと何も変わってはいなかった。
「やっぱりそっか。分かった」
 暫く連絡しなかった事にも、突然理由もなく振った事にも、何の感情もあらわす事のない虎次郎の言葉だった。怒ってさえいなかった。怒ってさえもくれなかった。あたしはこの時恋人と大事な親友を一遍に失ったのだと思った。
 こうしてあたし達の六年間は終わりを告げた。



 それから特に何事もなく時が経ってあたしは大学四年生になった。
 それなりに楽しい生活と、それなりに充実した生活と、特に文句のつけどころもない生活にあたしは満足していた。もっと深く言えば満足しきってしまったのだ。
 あれだけ憧れていた東京もただの当たり前のものにしか見えなくなっていた。立ち並ぶ巨大な建物とオシャレな雰囲気、そして何より人で溢れている東京という街。幼いころから夢見てあこがれ続けてきた東京という街が変わってしまっていた。あの頃彼と見た東京とは違って見え始めるようになる。
 単位も撮り終わって学校に行く機会も減った。就職活動をしているとは言っても毎日ある訳ではなく、あたしはすっかり暇を持て余すようになっていた。
 ふと脳裏に浮かび上がった六角の風景。
 東京から電車を二本乗りついで小一時間。あたしはおよそ一年ぶりに六角に帰ってきた。



 思い経ったら即行動に移すあたしは昼前には六角の駅のホームを歩いていた。
 特に誰に連絡してやって来た訳でもなく、実家にさえ連絡を入れていなかったあたしは駅周辺をふらついていた。自分の意思で帰ってきたものの何も連絡を入れずに実家に帰るのは気が引けた。きっと今まで帰ってこなかったことや連絡さえしなかったことを言われるような気がしていたからだ。
 六角は東京と違って小さい街だ。外を出歩けば知り合いに会わない事はなかった。あたしの傍を何人もの知り合いが通り過ぎて行った。皆あたしが六角にいるというのが信じられないようで声をかけてくる。繰り返しすれ違う知り合いと少しばかり話をしていると少しだけ夕日が差し込んでいた。



 あたしはゆっくりと実家の方角へと足を向けて歩いて行く。右手には懐かしい海の景色がオレンジ色を反射している。ぼんやりと特に何も考える事もなくあたしは本当にゆっくり、ゆっくりと前へと進んでいく。
 通りがかった先に一台の自販機を見つけた。酷く古びた自販機だ。
 一気に懐かしさが増していく。昔によく通った自販機だった。きっと今では使う人も少ないのだろうなと思わせる色あせた塗料に、時代を感じさせる今は市場に出回っていないようなパッケージの商品がズラリと並べられている。あたしは思わずその自販機の前にまで来ると立ち止まってしまった。
「青葉?青葉じゃないか」
 自転車のブレーキ音と共に懐かしい声が聞こえた。幼馴染の声だった。
「帰ってきてたのか」
「うん」
 三年ぶりに見る虎次郎は本当に何も変わっていなかった。その髪も、顔も、落ちつきも、何もかもが三年前と変わることなくあたしの瞳に映し出されている。
「これ買うの?」
 何の事だか理解できないでいるあたしに彼はディスプレイを指さす。あたしも一緒になってその先を見ると思わず目を丸くした。そこにはあまりに懐かしい、あたしが幼いころよく好んで飲んでいた六角限定のサイダーが置かれていた。
   懐かしい記憶が脳裏を巡っていく。

 幼いころ少ないお小遣いを持ってあの自販機へと走っていく。あたしの日課だった。
 迷わずサイダーのボタンを押す。待てど待てど降りてこない缶。いつも隣に居た虎次郎が一度力を込めてガンと自販機を叩きつけると必ず缶は素直に降りてきた。当時から老朽化の進んだ自販機だった。
「いつもそればっかりで飽きない?」
 隣で半分呆れながら笑う虎次郎が缶を取りだしてあたしに差し出してくれる。
「だって美味しいし。それになんかオシャレでしょ」
「そうか?」
 彼はそういうと首を傾げたけれど、あたしはオシャレと言って譲らなかった。今考えればそんな理由忘れてしまったけれど当時のあたしには相当おしゃれなものだったようだ。理由は忘れてしまったけれど、もうひとつよく言う言葉があった。
「うん。東京の味がする」
 当時から既に東京にぞっこんだったあたしの絶対的な言い分がこれだった。
 あたしはぐびぐびと勢いをつけてサイダーを飲むと絶対に咳き込んで半ベソをかく。すると決まって虎次郎が優しく背を撫でてくれた。昔から虎次郎は大人でいてそして気のきく人だったのだと今更ながらに思う。半ベソになりながらも東京の夢を語り始めるあたしにも優しい笑顔で答えてくれた。
 過去の思い出と、東京と、そして虎次郎と切っても切れないサイダーだった。

「もうそんな歳でもないでしょ」
 それにしてもよく覚えていたものだ。もう十年以上も前の事。それでもあれだけ買い続ければ覚えているのも当然か。あたしはまるで過去に抱いていた東京への強い憧れを否定するようにそう言った。
 珍しく少しだけ虎次郎が寂しそうに笑った。
「こじ・・・・・・サエこそ何でここに?」
 虎次郎。そう言いそうになってからあたしはサエと言いなおした。なんだか虎次郎と呼んではいけない気がしたから。
 付き合うまではずっとサエと呼んでいた。周りも彼のことをそう呼んでいたからだ。中学に入って付き合い始めるようになると珍しく彼がお願い事をしてきた。名前で呼んで欲しいと。今思えばそれが最初で最後の彼の我儘だった。だからこそ虎次郎と呼んではいけないと思った。
 あたし達はもう別れてから三年も経っているのだから。苦笑を浮かべる虎次郎にあたしの胸は罪悪感で溢れる。
「別にいいのにな」
 三年前、東京という誘惑に劣ったこの男にあたしは何も言う事が出来ない。

「もう虎次郎とは呼んでくれないのか?」



 あたしは結局そのあと実家に寄ることもなく東京に帰ってしまった。
 あれ以上あそこに居ると何だか帰れなくなるような気がしたからだ。気の知れた人が沢山いる。東京の人とは違う付き合いをしてきた人がいる六角は住んでいた頃よりも魅力的に見えた。特に何とも思っていなかった六角の海も、歩けば知り合いに会うような小さな街も、あの老朽した自販機も。
 あたしは東京を選んだ筈だった。故郷の六角を捨て、虎次郎も捨てたのだ。今更なんて都合のいい言葉は存在してはいけないのだ。
   あたしは東京の人になったんだ。ここに居なくてはいけない。



 就職難のご時世、大学を出たからといって簡単に職は決まらなかった。あたしは何社も会社訪問をしていく中で人間の冷たさを実感するようになった。甘いと言われればそれまでだ。でも東京の人は冷たいという言葉を急に思いだした。
 今まで何の不満もなかったはずの東京がどんどんと形を変えて行く。都合のいいように捉えているといえばそうなる。上手くいなかないからって。
 あたしは自分勝手な人間だ。大学に入ってから全く連絡を取っていなかった友人に連絡を取るようになった。
   就職決まった?
 それはただ話すきっかけを作るだけの会話。あたしは急に孤独に襲われた。この煌びやかな世界、東京で。
 それでも友人たちは連絡をくれた。励ましのメールだってくれた。突然慣れ慣れしくするあたしに何も言う事なく心配してくれた。あたしは初めて六角がこんなにも暖かい場所であったことを知る事になるのだった。こんな形で思い知らされるとは何とも薄情なはなしである。一度は捨てたものに頼り、縋ってあたしは今東京で生きている。
「ねえ青葉」
 電話越しの友の声が暖かい。
「帰っておいでよ」
 あたしに居場所を与えてくれた。



 千葉県の六角にあたしは帰ってきた。
 東京から電車を二本乗りついで小一時間。あたしはついに生まれ故郷である六角に再び帰ってくることとなった。東京の家も引き払い、就職活動も千葉ですることになった。本当に我儘でどうしようもない奴だ。
 まだ段ボールだらけの部屋に入る。数年ぶりに入る部屋はガランと静まり返っていた。
 一階からパタパタと足音が聞こえてくる。数回のノックと共に入ってきた母は「そういえばね」言って見覚えのある一本の缶を手渡してきた。それは間違いもなくあたしが好きだった、東京の夢を語りながら勢いをつけて飲むあのサイダーだった。慌てたように問いかけると母は不思議そうに口を開いて言った。
「虎次郎くんが青葉の帰郷祝いにって」
 あたしはゆっくりとノブを引く。勢いをつけた気泡がパチパチと顔を微かにかすめていく。
 口をつけて一口喉に通す。
 もう一口、喉に通す。ようやく気付いた。あの頃とは違う味、違う理想に。それは東京の味というよりは限りなくここ六角の味のような気がしてならなかった。東京に取りつかれていたあたしが帰れる場所、そんな味だった。
 あたしは全てを飲み干す前に階段を駆け下りて母親の声にも気付く事無く外に出た。どれくらいぶりになるのかさえ忘れた涙を浮かべながら、あたしは数件隣にある彼の家へと向かっていた。
   そう、佐伯虎次郎のいる場所に。
「サエ!サエ・・・・・・・・・虎次郎!」
 待ちきれなくなってあたしは虎次郎の家が見えると既に叫び始めていた。
「近所迷惑」
 そういいながらも反応して窓から優しい虎次郎の顔があたしを見下ろしていた。堪らなくなってあたしは涙で崩れたメイクをさらに崩していく。涙が止まらない。こうして昔と変わらない優しい笑顔で出迎えてくれる虎次郎がいるから。
「おかえり青葉」
 何事もないように彼は笑った。あたしが東京に行く前から時が止まっていたように。
「ねえ!虎次郎は就職どうする?」
 あの時と同じようにあたしは尋ねる。あの時と違ったのはあたしの顔がメイクで崩れ切って崩壊していたのと彼の答えが全く予想できないという事。でも彼はそんなあたしの予想を見事なまでに打ち崩してくれた。やっぱり彼の口から出る言葉は変わらないのだとあたしを安心させてくれる。
「俺は県内に残るよ。県庁を受けるつもり」
 言い終えると彼はすぐさま尋ねてくる。まるであの時と同じように。
「青葉は就職どうするの?」

「あたし六角に帰ってこようと思う!あとはまだ考えてない」

 二階に向かってそう叫ぶと彼は笑って小声で言うのだ。やっぱりねって。最初からこうなる事を彼は読んでいたとでもいうのだろうか。でもそれで辻褄が合うのだ。あの時彼は言った。あたしが東京に言って寂しくないのかという問いかけの返答、六角で待ってるよって。それは予めこうなる結末を予想していたから言った言葉ではないだろうかと。
 あたしのただの思いすごしかもしれない。あまりに虎次郎を買いかぶりすぎかもしれない。でもあたしにはそう思えて仕方がないのだ。
 虎次郎が外に降りてくる。不思議と気持ちが昔に戻ったようにきゅんと締め付けられた。
「だから言っただろ。俺は六角で待ってるって」
 この男はすごい男だ。でも同時にバカな男だ。こんな薄情者のあたしを三年間ただじっと待っていたなんてとんだバカ者だ。普通の人に出来る事じゃない。あたしはこんなに暖かい人を東京の為に捨ててしまったのだ。
「・・・・・・・・・いいの?」
「もちろん。三年間って結構長いよな」
 ごめんなさい。そう言うと彼は「待ってたから一つくらい我儘言ってもいいだろ?」そう言って強引に体を引き寄せて強く抱きしめた。今までにされたどの抱擁よりも乱暴でがむしゃらないかにも彼らしくないそんなものだった。
「虎次郎?」
 今の彼は冷静ないつもの彼とは程遠いように見える。
「おかえり。もう待たないからな」
 顔を見る間もなく強引にキスを降らせた。もう口答え出来ないように、あたしの口から東京という言葉が出ないように。離してはすぐ塞ぎにかかる彼の唇からはあのサイダーの味がした。
 それは東京味なんかじゃなく、六角の味であって、そして虎次郎の味だった。


 あたしがあの頃夢みた夢の街・東京はここにあった。
   六角は東京そのものだった。


正しい東京の作り方 - 20100421